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 一月のこと
 奥穂高岳南稜の思い出
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 一月のこと

  毎年のことだが、一月という一ヶ月はとても時間が長く感じ
 られる。一日にしてみるといつもと変わりはないのだが、一ヶ
 月にして考えるとずいぶんと長い。だがこれが二月に入るとと
 たんに変わり、あっという間に三月になり四月になり、やがて
 夏が過ぎて秋になってしまう。
  子供の頃、遠足が楽しみで、その日のくるのがとても遅く感
 じられたものだが、今は、それほど待ち遠しくて仕方がないと
 う事柄がない。しいて言えば、年に一回の個展の開催が待ち遠
 しいといえる最大の楽しみであろうか。
  一年に約十ヶ月、ただ個展に出品することだけを目的に作品
 を準備する。決められた時間の中で決まった数の作品を完成さ
 せなければならないので、当然のことながら楽しく描くという
 余裕はない。
  だが、これだけのことをしても個展開催中の一週間はとても
 楽しい。懐かしいお客様に再会できることもあり、初めての方
 とお話をさせていただく楽しみもあるからだ。
  話が横道にそれたが、今年もまたその一月が始まり、新しい
 一年が始まった。






     □奥穂高岳南稜の思い出(本文の一部)

       おりしも今日、偶然にも初夏の上高地を描いたテレビのドキ
     ュメンタリー番組を見た。河童橋にはたくさんの観光客が行き
     交い、新緑のヤナギ、澄み切った梓川の流れが美しく映ってい
     る。
      残雪の穂高連峰が見える。天狗岩が見える。コブ沢は残雪が
     豊かだ。
      懐かしさがこみ上げる。かつて、心を踊らせて眺めた風景が
     脳裏を駆け巡る。
      自分の心のなかにある「寝た子」を起こしたくないと、山を
     離れて以来ずっとこうしたテレビの番組や雑誌の記事を避けて
     きた。
     「あの山へも行きたかった。あそこへはまだ行っていない。な
     ぜ行かなかったのだろう」、時折そんな後悔もした。だから、
     つとめてこうしたものを見ないようにしてきた。
      画面は新緑の林の中を行く登山者を映している。カラマツの
     林の中にウグイスの声が明るく響く。川の流れの音が聞こえる。
     わけのわからない熱い想いが胸にこみ上げる。

      画面は再び穂高連峰を映している。「今、もう一度あの頃の
     ようにあの道を歩いてみたいと思うだろうか」自分にそう問い
     かける。

     「奥穂高岳南稜の思い出」の本文はこちらをご覧くだ
     さい。 

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