目次へ戻る □岩手県へ行った 先日、岩手県へ行ってきた。前日までの雨がすっかり上 がり、涼しい海風の吹く過ごしやすい毎日であった。 最初の日、花巻の「高村光太郎山荘」へ行った。のどか な田園風景に接した小高い丘の麓の雑木林の中にそれはあ った。 ここへくるまでに見た写真の中の山荘は二つあって、ひ とつは農作業のための小屋のような粗末なものであり、も うひとつは比較的新しく山荘と呼べるような大きなもので あった。 なぜこのように異なるものが「高村山荘」として紹介さ れているのか理解できなかったが、山荘より先に立ち寄っ た「高村記念館」で尋ねてすぐにわかった。前記の「小屋」 が本当の「高村山荘」であり、新しく大きなものはその小 屋の老朽化を防止するために後になって作った覆いである という。なるほど、覆いだという建物の中に入って見た 「山荘」はまさに「小屋」であった。小さな流し台のよう なものがあるひんやりとした土間と、当時は畳が敷かれて いたらしい板の間がこの山荘のすべてであった。 厳しい東北の自然の中にあって、この暮らしがなぜ必要 であったのか? 山荘裏手の丘は、光太郎がよく散策し、時には亡き智恵 子の名を呼んだという「智恵子展望台」である。 今回の旅行の楽しみの一つであったこの山荘のスケッチ は、わずかに時期が遅すぎたようで、新緑の樹木の葉が茂 りすぎて、建物がその陰に隠れてしまっていたのが残念で あった。 ………この続きはまた後日。二〇〇四年六月 |
□京都駅八条口 奈良の教室から戻る途中、京都駅で時間に余裕ができたの で、南の八条口へ出てみた。おびただしい数のタクシーが客 を待っている。 八条通の横断歩道を渡ったところで、ぶらりと西へ向かう。 街路樹の紅葉がなんとも美しい。新都ホテルの前の歩道に はアメリカ楓が、黄、赤、えんじの美しいグラデーションを 見せていて、思わず足を止めて見とれてしまう。葉と葉の間 には独特の形の実も見えて楽しい。 少し行って南へ折れた。ここはイオンモール京都である。 ケヤキの並木が紅葉している。真っ黄色なイチョウも輝くよ うだ。 野や山の自然に見る紅葉の風景も味わい深いが、人の手に よって作られた都会の中の秋色(あきいろ)もまた捨てがた いものがある。だが、ビルに囲まれたこの街を華やかに染め た紅葉の季節はまことに短く、次にこの街を訪れるその日に は、この歩道にも冷たい北風が吹き、色あせた落ち葉が舞っ ているのかもしれない。 二〇一六年(平成二八年)十二月、京都駅八条口駅前広 場整備事業が完成し、このあたりの風景は一変した。 □秋のコンサート ![]() やわらかな午後の日差しに 石畳の歩道が落葉色に光ります 一年に一度だけの秋のコンサート 街角の小さなレストランで開きます 目じるしは緑の屋根と古ぼけたドア ぜひお出かけください 上へ戻る |
□今日もまた ここのところ、気温の変化が大きく、冬服がいつまでたっ ても片付けられないと皆が言う。だが、すでに四月も半ばを 過ぎた。 今日も列車に乗って奈良の教室へ向かう。車窓の風景は確 かに春である。 平地の桜はすでに花が散って葉桜であるが、 少し向こうの小高い里山の山肌には、深い常緑樹の緑の中に、 まだ一本二本と白く満開の桜が見られる。 列車が進み、しだいに山が深くなっていく。 常緑樹の黒 味がかった深い緑と、落葉樹の芽吹きの、まだ若葉とはいえ ないほどの新芽の、黄土色と白色とそこにわずかに黄緑色を 混ぜたようなとてもやわらかな色と、そして、すでに若葉が 開いたさわやかな黄緑色との、その二つの色の間の幾種類も の色のグラデーションがやさしい日の光を受けてとても美し い。 だが、新緑の季節はごく短くて、若葉の色は日に日に濃く なりやがて汗ばむような初夏となるのだ。 列車が峠を越える。視界が開ける。はるか遠くに白く雪に 覆われた山が見える。再び里山と、そして田畑の広がる風景 となる。 線路は大きく左に曲がり、車内のアナウンスが終点が近い ことを告げる。列車がそれに合わせるようにゆっくりと速度 を落とした。 上へ戻る |