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 古いノートから

 昔はね、この徳本とくごうの峠が上高地へ入るただ一つの道だったんだ
 ホラ見てごらん
 見上げるほどに高いあのとがった三角の岩の峰が前穂高岳
 ここからは見えないけれど、あずさ川はその足元を流れているんだ
 この峠からそこまでは、のんびりとした一本道を下っていくだけさ
 だからもう少しだけここで休んでいこうね
 チョットだけ耳を澄ましてごらん
 あれはきっとネ、クマザサの山肌を通り過ぎる風の音さ
 いつだったか、このベンチにごろんと横になって
 かんばこずえの向こうのあの高い青空を眺めていたら
 なぜか目の奥が熱くなってきたんだ

    


    
瀬戸の花嫁

   「瀬戸の花嫁」という歌がある。「瀬戸は日暮れて夕波小波・
   ・・」という、あの歌である。
    この歌の誕生したいきさつを紹介したテレビの番組があって、
   それを見ていた。
    テレビの画面に四国丸亀の港が映り、その桟橋を離れた小さ
   なフェリーが、島へ向けてゆっくりと進んで行く。船体を見る
   と「ほんじま丸」とある。「ほんじま」とは、もしかして自分
   の記憶の中にある「本島」のことではないか。
    いつの秋だったか、瀬戸内に浮かぶ塩飽(しわく)諸島の中
   の「本島」に、古い町並みが残されていることを知って、そこ
   を描こうと出かけたことがあった。「ほんじま」はその本島に
   違いない。
   「瀬戸の花嫁」の歌にのせて、カメラはおだやかな瀬戸の海に
   浮かぶ本島を映しだす。空は青く、瀬戸大橋が白く美しい姿を
   見せている。
    フェリーはやがてその本島の港に着いた。国の重要伝統的建
   造物群保存地区に選ばれた笠島の集落が紹介される。懐かし
   い風景である。
    番組によれば、この島にかつて小さな船に乗って嫁いできた
   「瀬戸の花嫁さん」がお住まいで、そのご夫婦から当時の思い
   出話を聞くということであった。
    本島の港から、古い町並みの残る笠島の集落へは、海沿いの
   道を三十分ほど歩いていく。「天候に恵まれて空も海も青く、
   右手に瀬戸大橋を見て行くこの道は、とても楽しいものであっ
   た」。
   画集「日本の古い町並 みと集落」の一ページ「笠島」に、私
   はそう書いている。
    番組は、瀬戸の花嫁さんの輿入れ風景を当日の写真で回想し
   て終わった。
       
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